「ボッチプレイヤーの冒険 〜最強みたいだけど、意味無いよなぁ〜」
第71話
自キャラ別行動編(仮)
<思惑と成長>
「それにしても見事に粉々になるものねぇ」
「恐れ入ります」
ミシェルの「秘奥義! 砕岩超振動波!」の威力に私は少し驚いていた。
この技、用途から考えてプレイヤーで取っている人は多分殆どいないと思う。
ゴーレムや鉱物系モンスターには絶大な効果があるし、甲羅が硬い昆虫系モンスターには少しだけプラス判定がある。
これだけ聞くとよさそうなスキルだけど、プラス判定されるモンスターなんてユグドラシル全体の1割もいないのよ。
それなのにダメージがまったく通らないモンスターは3割ほどいるし、マイナス判定されるモンスターを入れれば全体の8割を超えるだろう。
まさにネタ技なのよ、これ。
それだけにマスターが、絶対に城から出ない給仕メイド兼前衛のNPCならネタとして習得させてもいいんじゃないかとミシェルに覚えさせた物なのよ。
そんなネタ技だから効果を見る機会が今まで無かったんだけど、まさかストーン・ゴーレムの体を砂粒くらいまで細かく砕くとはね。
いやはや、流石ユグドラシルのスキル。
一点豪華主義の技としてなら本当に使えるものだったわけだ。
「ストーン・ゴーレムだけどぉ、岩の魔物と村の人たちにはせつめいしたしぃ、粉々になった体がひりょうになって作物がよくそだつようになると思うよって言えばぁ、シミズくんのけんぞくの効果を強くしてもあやしまれなくていいんじゃない?」
「うぉっ!? あいしゃ、何時の間に」
ミシェルと一緒に粉々になって土と混ざったゴーレムをぼぉ〜っと見ていたら、何時の間にか後ろに来ていたあいしゃに声をかけられてびっくりしてしまった。
「なるほど。流石あいしゃ様、その御説明なら最初の年から作物が多く育ったとしてもおかしくはありませんね」
「そうでしょぉ」
ミシェルに自分の言葉を肯定されて、あいしゃがニパッと得意げな笑顔を見せる。
うんうん、可愛いから私も褒めてあげよう。
「そうだね、そう言っておけばあれがゴーレムではなく魔物だったと言う証明にもなるし、いい考えだと私も思うわ」
「解りました。では、そのように村人たちに説明してまいります」
そう言うとミシェルは私たちに一礼して、ユカリと一緒に避難していた村人たちの方に歩いていった。
「ボウドアでは予め土壌改良しておいたと説明した館周辺の土地から土を運んで収穫量を増やすと言う”設定”だったけど、ここではこの場所の土を畑に運ぶ事でその役目も果たせそうね」
「そうだねぇ。モンスターの体がえいようとして含まれている土をまぜた畑と言うちゃんとした理由さえあればぁ、そのままシミズくんのけんぞくにはたらいてもらえばいいしぃ、ボウドアの村とそれほど変わらないしゅうかくりょうになってもおかしくないからぁ、よけいな説明もしなくていいからそれがいいね」
最大の問題だったシミズくんの眷属を何時ごろから稼動させるかと言う問題がこれで一気に片付いた訳だ。
一応収穫量を来年からも維持させる為に、肥料とか石灰を使った土壌改良の説明はしなければいけないだろうけど、それがなくなっただけでもかなり仕事量は減ったと思う。
そして何より、私が頭を使う場面が減ったと言うのが一番よね。
「シャイナ様、村の者たちを恐ろしい魔物から守っていただき、まことにありがとうございました」
「いえいえ、とんでもないです。私が対処できる魔物でよかったですよ」
テーブル越しに深々と頭を下げる村長に、恐縮して答えた。
あの後私は移動して、今はエントの村の村長宅にいる。
避難した村人の報告を受けた村長が慌てて畑まで走ってきたのは、確か私がストーン・ゴーレムを倒してから30分位した頃だったかな?
その頃にはもう騒ぎは完全に収まってミシェルたちが村人への農業指導を再開していたんだけど、流石に何の説明もしない訳にはいかないと言う事で、畑は彼女たちに任せて私は一人、この家を訪れて事の顛末を語っていたと言う訳なの。
「ところでシャイナ様、村の者たちを救っていただいたのにもかかわらず、私どもは見ての通りあまりお金がございません。ですから恥ずかしい話ですが、もし冒険者が同じことをした場合に支払われる正規の報酬額をお支払いする力が無いのです」
「ああ、いいですよ。別に報酬を頂くつもりはありませんから」
自作自演でモンスター退治をしておいて、その報酬を受け取るなんて出来るわけないもの。
当然村長の申し出は断るつもりだったんだけど、私がこう言っても村長はひいてはくれなかった。
「いえいえ、そういう訳にはまいりません。本来なら冒険者ギルドに討伐依頼を出さなければならないような状況なのですから、報酬を払わずに済ませてしまうと後でギルドの方から何を言われるか解らないですから」
「なるほど」
そう言えば、ボウドアでも同じ様な事を言われたっけなぁ。
あれ? でも、確かあの時は治療についてだけだったような?
私たちの働きに対しての報酬の話をマスターがしだしたら、村長が驚いたとまるんが言って笑っていたような気もするし。
「魔法の治療に関しては神殿に対してそのようなお話があると聞いたことがあるのですが、冒険者ギルドにもそのような決まりがあるのですか?」
「あっいや・・・そうですね。明確な決まりは無いのですが、このような村では冒険者に依頼することが多々あります。そんな冒険者を束ねる冒険者ギルドににらまれるような可能性がある事は、出来たら避けたいのです」
「う〜ん、それなら解らない事も無いですね」
確かに無駄に事を荒立てたり、トラブルを背負い込みたく無いと言うのは解る気がする。
この場合は素直に報酬を受け取っておいた方がいいのかもしれないね。
「解りました。それなら報酬を頂くという事にして・・・でも、その報酬を支払う力が無いというお話でしたよね? どうされるおつもりですか?」
その私の言葉に村長は満面の笑みを浮かべてこう提案してきた。
「はい、私どもではお金をお支払いする財力はございません。また、収穫期でも無いので農作物による物品でもお支払いも無理です。そこでご提案なのですが、ボウドアの村はシャイナさまに野盗から救って頂いた時の報酬を村の土地でお支払いしたと聞きました」
「ええ、私もアルフィンからそう聞いています」
あれ? なんか話がおかしな方向に行きそうな気がするぞ。
そう答えたものの、この話はこのまま続けてはいけないような予感がした。
なんか、この村長の思惑で動かされて居るようなそんな気がするのだ。
「そこでこちらからの提案なのですが、私どもも村の外れの土地をシャイナ様に報酬としてお支払いしたいと考えているのです」
う〜ん、これはどう答えたらいいんだろう?
確かに筋は通ってる。
ボウドアでは、野盗退治の報酬として土地を貰ったからね。
でも前回はマスターから言い出したことで、それもマスターにこの世界の人との接点を作りたいという思惑があったから出てきた提案だった。
それに対して今回は、ボウドアの館と言う接点がある以上素直にこの土地を貰っていいのか私には判断できないのよね。
それにこの村長の満面の笑み。
この表情からすると、この土地を譲るというのも何か思惑がありそうだし。
うん、ここは即答しないで一度マスターに相談した方がいいわね。
「すみません、それに関しては私では判断できません。ですから一度我が都市国家の支配者であるアルフィンに相談してから決めさせて貰っていいですか?」
「・・・そうですね、報酬額の妥当性というものもありますし。ただ、先程も申し上げたとおり、お金でお支払いすることはできないと言う事だけはご了承いただけるとありがたいです」
うん、やっぱり何かあるみたいね。
私の返答に、一瞬言葉が詰まったもの。
「解りました。一度あいしゃの元に戻って、あの子が持っているマジックアイテムを使ってアルフィンと相談してきますから、ちょっと待っていて下さいね」
「はい、お待ちしております」
私は村長に待っていて貰う約束をしてから、あいしゃが待つ畑に向かった。
「マスター、聞こえますか?」
あいしゃの元へ戻った私は早速<メッセージ/伝言>を封じられたマジックアイテムを借りてマスターの元に連絡をする。
今度はちゃんとあやめに向けてね。
「あらシャイナ、どうしたの? その声からすると、ゴーレム作戦はうまく行かなかったのかな?」
「いえ、そんな事はありません。無事シミズくんとストーン・ゴーレムの摩り替わりも成功して、村人たちはミミズの魔物は無事退治されたと思って安心しています」
私の不安がマスターに伝わったみたいで、勘違いされてしまったようなのでそこだけはしっかりと否定しておいた。
だってマスターの作戦はちゃんと成功したんだから、勘違いをしてマスターが心配しては大変だからね。
「そうなの、良かったわ。ではこのメッセージは作戦がうまく行ったという報告なの? それにしてはあなたの声色が少しおかしいみたいだけど」
「はい、実はですね」
私はゴーレムを倒した後、村長が慌ててやってきた事。
詳しい説明が聞きたいからと言われて一人で村長宅を訪れた事。
その報酬として村の土地の一部を渡したいと村長から提案があった事。
そしてその提案があった時の村長の顔を見て不安になったから返事は一度保留してマスターに相談する為にこの<メッセージ/伝言>を行っていることを説明した。
全ての説明を聞き終わった後、マスターは満足そうな、嬉しそうな声で私を褒めてくれた。
「うん、よくやったわシャイナ。それで正解よ」
「良かった。では私の判断に間違いは無かったんですね」
マスターの言葉にホッした。
私は頭脳労働があまり得意じゃないから、余計な事を考えないのって怒られないか、ちょっと心配だったのよね。
「その村長の思惑だけど、多分ボウドアの館の話を聞いて、その有用性からエントの村にも同じ様にうちの館を作ってもらいたいと考えての提案だと思うわ」
「エントの村にも館を、ですか?」
なるほど、確かにそう考えるとあの村長の満面の笑みも解るわね。
ん? でも、ならなぜマスターは返答しなかった事を褒めてくれたんだろう?
館くらい、アルフィンなら一瞬で建てる事ができるのに。
「マスター、一つ御聞きしていいですか?」
「なに? 何が聞きたいの?」
マスターの声が興味深げに変わる。
何を思っての事か解らないけど、マスターの思惑を考えるのは後だ。
とりあえず、私の考えた疑問をぶつけてみる事にした。
「マスター、館を作るだけなら簡単ですよね。アルフィンの魔法なら、いえ、クリエイトマジックが使える私以外の全てのプレイヤーキャラクターなら。なのになぜ即答しなかった事を正解だと仰るのですか?」
「う〜ん、そうねぇ。シャイナ、そこが解っているのなら他に理由があるというのも解るわよね。なら一度考えてみなさい。どうしても解らないようなら答えを教えてあげるから」
えっ? 私が考えるのですか?
私は頭を使う事に関してはまるで役立たずだと言う事はマスターもご存知のはず。
それなのに私に考えて答えを出せと言う事は、それ程難しい答えではないという事よね。
マスターはできない事は言わないはずだし、その考えのもと、私は理由を考える事にした。
まず、館を作る事自体は簡単だとマスターは肯定してくれた。
なら館をエントの村に建てる事自体は簡単だという事だからそれ以外の理由なんだよね?
ではボウドアの館にあるものが理由か。
「ゲート・オブ・ミラーの設置場所を増やしたくない?」
「確かにあまりホイホイ増やすのはやめておいた方がいいと思うけど、私の予想としてはまだこれからもいくつか設置場所が増えると思うわよ」
違うのか。
なら・・・。
「水場! 水場や浴場に設置するマジックアイテムが勿体無いんですね!」
「あのねぇシャイナ、生産系ギルドであるうちの商品の一つだったからそんな物は売るほどあるんだし、アルフィスがいくらでも作り出せるのだから勿体無いなんて館を作らない理由になるはずが無いでしょう」
あっ、そうか。
だとしたら、なんだろう?
庭、は館と同じで作るのに手間はかからないし、別館も同じ理由でありえない。
それ以外に何かあったっけ。
そう考えながらボウドアの館を頭に思い浮かべる。
その光景を頭の中で見渡しているうちに、あるものが私の目に留まった。
「人、そうだ! メイドたちですね。物や館はいくらでも作れるけど、メイドたちはそうは行かないです。一般メイドは余っているけど、戦闘力皆無の彼女たちだけで館を維持できないし、聖☆メイド騎士団や魔女っ子メイド隊のメンバーは数が限られているからそれ程多く他の地に派遣する事ができません。だから無駄な拠点をあまり増やしたくないんじゃないですか?」
「うん、正解。よく気が付いたわね」
あやめの嬉しそうな声が頭に響く。
良かった、正解だったみたいだ。
「シャイナが気付いたとおり、戦闘が出来る子たちはこれから先他の場所に派遣する事になると思うのよ。それだけに必要のない場所には派遣したくない。でも、エントの村が求めるのはボウドアの館のようなものだと思うのよね。だとすると、そんなものを一般メイドの子達だけで管理させるわけには行かないわ。あなたが先程も言った通り、館にあるものはこの世界では大変価値があるものだもの」
ゲート・オブ・ミラーは当然として、水場に使われている湯を沸かすマジックアイテムや無限の大樽だけでもこの世界ではかなりの価値があるという話だし、それ目当てで野盗がエントの村に来るかもしれない。
そう考えると確かに一般メイドたちだけで管理させるわけには行かないだろう。
「そういう訳だから、村長には丁重にお断りを入れてね」
「解りました。では土地を譲り受けるのはお断りするとして、報酬はどのように受け取る事にしますか?」
さっきの話の内容から考えて、報酬受け取り自体を辞退するのは難しいだろうと思う。
「そうねぇ、分割払いでいいんじゃない? それもお金じゃなく、取れる作物の一部で。どうせ今までよりも収穫量は目に見えて増えるのだし、今まで通りの割合で税が増えても手元に残る量も増えるのだから、その一部を貰うという事で手を打って貰いましょう」
「解りました。そのように村長に提案してみる事にします。マスター、ありがとうございました」
「どういたしまして。それじゃあ村長とのやり取り、がんばってね」
相談はこれで全て終わったので、マスターに挨拶をして<メッセージ/伝言>を解除した。
そして私は近くで子供たちと遊んでいたあいしゃにマジックアイテムを返し、軽やかな足取りで、村長宅に向かうのだった。
■
「どういたしまして。それじゃあ村長とのやり取り、がんばってね」
この言葉を合図に<メッセージ/伝言>が切られた。
と同時に私はフゥと、小さくため息をつく。
シャイナ、ちゃんと成長しているのね。
私が作ったプレイヤーキャラクターであるシャイナは完全に脳筋だった。
でも、そんなシャイナでも村長の表情を見て違和感を持つ事が出来たし、質問をして考える時間を与えればきちんと答えを出せるようになっていた。
自我を持ってからのこの短い時間の間に、良くぞそこまで成長したものだと思う。
実はちょっと心配していたんだよね。
プレイヤーキャラクターもNPCたちもユグドラシルで身につけたスキルが無い事に関してはまったくできないし、習得する事もできない。
これは転移してすぐに調べたから間違いないのよね。
では思考は? 頭の方はどうだろう?
これに関してはスキルじゃなく、フレイバーテキストや自キャラたちなら私の思考パターンが元になっているみたいだから、ユグドラシル由来ではないのよね。
だからこそ、もしかしたら進化するかもしれないし、スキル同様まったく変化しないかもしれないと考えていたのよ。
それだけに今回のシャイナの発想は正直嬉しかった。
この子達もちゃんと成長するんだってね。
うちのギルドはキャラクターこそ6人いるけど実質的には私一人しかいない。
ボッチプレイヤーだったから当たり前よね。
もしかしたらフレンドがこの世界に転移しているかもしれないと思ったけど、戦闘ギルドの人たちが転移しているのなら大騒ぎになっているだろうからそれはないだろう。
いや、もしかすると彼らの事だから外敵に対して慎重に行動しているせいで世に出ていないだけなのかもしれないわね。
まぁ、それならばいずれ世に出てくるだろうし、その時に合流すればいいか。
でも望み薄だろうなぁ。
私にアイテムやお金を託し、引退したりよそのゲームに移って行ったフレンドたち。
その他のフレンドたちもサービス終了まで残っていた人は殆どいなかったし、なによりこの転移があのサーバーダウンの瞬間に精神が切り離されたのだとしたら誰もこの世界には来ていないだろうと思う。
だって、直接血液中のナノマシンとジャックに繋がっているゲームのサーバーダウンを、いくら安全装置がついているからと言って経験してみようなんて考えないだろうから。
そんな考え無しは私くらいなんじゃないかな?
今思うととんでもない話よね。
サービス稼働中ならともかく、サービス終了時点であちら側の安全装置は切れているのだから、どんな不具合が起こるか解らないというのに。
フッ。
実際に転移と言うとんでもない不具合にあってしまったものね、私。
そう考えながら私は自虐的に笑う。
だからこそ、この世界には私のフレンドたちは来ていないだろうと、ずっと一人なんだと思っていた。
でも彼女たちが成長してくれるのなら、私と共に本当の意味で生きて行ってくれると解ったのだから。
「もうボッチでも寂しくは無いわね」
クスッ。
そう呟いて、私は先程とは違う笑みを洩らした。
「さて、現実逃避はこれくらいにしてっと」
私は思考の海から視線を目の前の光景に移した。
「どうしたもんかなぁ、これ」
私も誰かに相談したいくらいだよ。
そう、私も実は今、途方にくれていた。
目の前に広がる、私にひれ伏す数多くのケンタウロスたちと言う異様な光景を前にして。
あとがきのような、言い訳のようなもの
能天気そうに見えて、主人公もこの世界に飛ばされて不安で寂しかったのです。
それはそうですよね、周りには知った人は誰もいないのですから。
しかし、シャイナの成長を見て自分の心に折り合いが付けられたようです。
そう、シャイナは成長しました!
原作でコキュートスが成長できたのだからシャイナだって当然成長できます。
これからはきっと、頭を使うことにも積極的に取り組んでくれることでしょう。
・・・いけない、とんでもない事になる予感しかしないw
ところで今回の主人公の一人語り、アインズに対するアンチ・ヘイトになるのかなぁ?